暗がりの流し台でマグカップをゆすぎ、裏返して脇に置いて一歩下がったところでプチリと音がした。
あの空気の入った梱包緩衝材をうまく潰せた時のようなクリアに空気を破る音。
裸足で何か踏んだらしい。
「あのような音がするものは夕食を思い出してみても思い付かないが」
前かがみになり左足を内側に上げて足裏を見る。
なにやらうずらのたまご大の楕円形の輪郭が土踏まずにくっついている。
「なんだろう?」
少し慎重に指先を界面に差し入れるように触れると
その楕円形の物体は落ちた。
キッチンの電気を付けずに少し離れたリビングからのうっすらとした光が届く中、
床に落ちたその物体を眺めようと腰をかがめ、手で拾おうかと逡巡する。
「ぴよこん」
そいつは5センチ跳んだ。
跳んで動かなくなった。
アマガエルだったのだ。
あぁ殺生をしてしまった。
ティッシュで軽くくるみ手のひらに。
腸が下腹部からはみ出しているようだ。
「どうしよう」
仏に拝むように両手を合わせ手と手の間にそいつをティッシュと一緒に挟んだまま念ずる。
「悪かった」と思いつつ。
虫が見つかったときのようにこのまま窓からティッシュごと外に出し、
ティッシュをつまんでそいつを振り落とそうかと考えたが
こいつの場合はそれで生き残る可能性はほとんどない。
この体では繁殖まで至るはずがない。
きっとアリがこいつをみつけ、分解して持ち去ってしまうだろう。
苦しい思いをさせたくないと思った僕は、
結局彼をティッシュごとゴミ箱に葬った。
そいつは僕の足の裏でぴょん吉となることはなかった。
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